top of page

ミッキーマウスとクラシック音楽

Mickey Mouse Goes Classical

原文下訳:比嘉セリーナ

翻訳補佐・監督:丸田剛司

<P33>
中央の解説:
 ハリウッドの防音スタジオ内にある指揮台に立つレオポルド・ストコフスキー。
ウォルト・ディズニーの映画『ファンタジア』における実写パート撮影時の様子。
 
 
<P34>
左上の解説:
 ディズニーがストーリーをストコフスキーと音楽評論家のディームス・テイ
ラーへ説明している。
 テイラーは評論家であると共に、ミッキーが古典音楽の枠組みを壊すこ
との手助けもした。
 
左下の解説:
 フィラデルフィア音楽アカデミーの地下室で技術者たちがオケの各セ
クションの音楽収録のコントロールをしている。
 
 
<P35>
右上の解説:
 上の画が「動く音」の効果を作る継続的な音符が4つのフィルムト
ラックにどのように表示されるかを表している。
 
中央右の解説:
 収録した3つのトラックを同調させるため、レコーダーのダイヤルがチェーンで繋がれている。
 
下の解説:
 再録用コンソールに向かう技術者たちが7つのトラックの音を合せている。
 
 
<P33-35>
本文:
 「動く」音が「動く」映像に合わさることで、スクリーンには絶大なリアリズムがもたらされた。ディズニーによる新しいテクニカラー映画作品『ファンタジア』では、ミッキーとその新しい仲間たちはクラシック音楽を披露した。このハリウッドの最新作はニューヨークのブロードウェイシアターで数週間前にお披露目されている。
 「動く」音とはまさに読んで字のごとしである。周囲を囲う60個ものラウドスピーカーが、スクリーンから飛び出しては戻っていく、聴衆をおおう音や、頭上で延々と静まっていく音を拾うことを可能とした。音響機材だけで35個もの荷箱をいっぱいにしてしまう。こうした理由により、『ファンタジア』は複数の機材を導入できる都市部のごく限られた劇場でのみ上映されることとなった。
 7編の偉大な楽曲である『ファンタジア』、2年の歳月をかけたディズニーの苦心の作品には、RCA社(Radio Corporation of America)のエンジニア陣と、1000人ものディズニーのアシスタントが投入されている。演奏はレオポルド・ストコフスキーが指揮するフィラデルフィア交響楽団。音楽評論家にして作曲家のディームス・テイラーが制作に協力している。
 『ファンタジア』成立の裏には、過去にあったいかなるものよりも常に新しく、より良いなにかを提供するというディズニーの絶えまぬ欲動が存在している。「私たちは、」と彼は言う。「スクリーン裏のたった一つのスピーカーから出る音がどれほど薄く、か細く、伸びきってしまっているかを知っています。シューベルトの『アヴェ・マリア』、ベートーベンの交響曲第6番のような、美しい傑作を再現したかった。そうすれば観客も指揮台にストコフスキーと一緒に立っているかのように感じることができるでしょう。」
 このような感覚を成し遂げることは、つまり館内の至る所まで音を響き渡らせること、音源を聴者に意識させないことと同義であることを彼は理解していた。音の収録には各楽器・発声のいずれもがしっかりと聞こえ、オーケストラ全体で調和がとれていなければならない。『ファンタジア』はレコーディングだけで約18カ月もの時間を費やしている。テイク、プリント、リメイク全体でおよそ3,000,000フィート分ものサウンドトラックが作られ、これが最終的には10,778フィート、計4つのサウンドトラックにまで凝縮された。
 1939年4月初頭のフィラデルフィア音楽アカデミーのステージ上で110人ものオーケストラが最初に演奏した時、ディズニーもエンジニアたちも、どこで実験が試みられるのか知る由もなかった。33つのマイクが奏者たちへ向けられている。そこから、9つのチャンネルが建物の地下室に設置されている9つのレコーダーへと音楽を運ぶ。内7つのチャンネルは木管楽器やヴァイオリンなど個々の演奏グループから音を送っている。8つめのチャンネルがオケ全体の音を送り、9つめのチャンネルは電信機からの音を送る。これは後にハリウッドのアニメーターたちが『ファンタジア』内のアニメーションを音楽に合わせるためのものだ。
 ストコフスキーとオーケストラの働きは7週間にも及んだ。その間、第二監督はレコーディング器具と向き合い、各パッセージのフィルム上のレコーディングに指示を出していた。彼は、複製の楽譜からコーラスを挿入したり、ソロを組み込んだりした。エンジニアたちは、音響機材からどれほどの音が来ているかオシロスコープの表示を見ながら音量を調節している。
 ぴったり483,000フィート分のサウンドトラックが42日間で収録され、缶詰されたフィルムが加工処理のためハリウッドへ運ばれる。そのリテイクの後、必要となるコーラス、ソロ、楽器音楽の組み合わせが作られる。
 そしてようやく、これらのサウンドトラックをミックスして最終的な仕上げとする作業になる。まず、エンジニアたちは単一のサウンドトランスミッションに繋がる複数のスピーカーで試してみた。広域に音を行き渡らすことは出来たが、キャラクターが喋ったときの言葉と口の動きのシンクロ性が失われてしまっていた。
 プロデューサーが納得させるため幾度にも及ぶ実験がなされた。その結果、導き出された解決策は9つのトラックを4つに結合させる、というものだった。4つの内3つを音声、音楽、特殊効果音の「エンターテインメント・サウンド」とし、残りの1つを上記3つのボリュームを統御する制御周波数にするという考え方だ。
 『ファンタジア』が上映される映画館の映写室にいるオペレーターには、別段複雑な作業は要求されない。彼らがすべきことといえば、日課であるフィルム掛けと、映像のフォーカスに気を配ることだった。
bottom of page