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ミッキーマウスをトーキー映画の俳優に
Making Mickey Mouse ACT for the TALKIES
著/ゴードン・S・ミッシェル
<P12-13 見開き>
左ページ右上の解説:
多くの人から人気があるミッキーマウスと仲間達
のカートゥーンはどうやって作られているのだろう?
この記事ではそうしたアニメーションの現場で働く
スタッフが語るカートゥーン制作のプロセスを説明
していく。
左ページ中央の解説:
上の写真のように、漫画映画は一度に一枚づ
つ絵を透写板にセットし、その真上に設置され
ているカメラで撮影していく。 この方法では一
日に50ft.(15m)のフィルムしか作成できない。
台上に詰まれた動画の束に注目。
右ページ左上の解説:
ミッチェル氏はユニバーサルピクチャーズの
音響部門のメンバーであり、映画製作の技術面の解説に
うってつけの人物である。
右ページ中央右の解説:
上の写真はまさにカートゥーン映画のストーリーが出来る場所だ。アーティスト、ミュージシャン、演出家たちが会議のテーブルでストーリーについて話し合っている。
右ページ中央左の解説:
『しあわせウサギのオズワルド』はとても人気があるアニメキャラクターだ。上の絵はクリエーターのウォルター・ランツが書いたオズワルドの典型的なポーズ。
右ページ下の解説:
有名なミッキーマウスの創造主であるウォルト・ディズニーがミッキーが大きな黒い熊(原文:Big Black Bear)につけられているイラストを寄稿してくれた。全体で省略されている影と無駄のない画線に注目して欲しい。陰影の線はフィルムの仕上げ時に付け足され、ぼやけたエフェクトを作りだす。一般的にアニメ映画を作るためにはこのような絵が10,000点程必要になる。
本文:
次にお気に入りの映画館に行く機会があり、そこでミッキーマウスやウサギのオズワルド、クレイジー・カット、その他に馴染みのあるキャラクター達がスクリーンのアニメミュージカルで走り回っていたら、ちょっと立ち止まってこうしたキャラクターが作られるための膨大な作業量に思いを巡らせて見てほしい。
10,000点以上の絵が延々と手描きで書かれ、あなたたちが目にしている20分のエンターテイメント作品となっている。アニメの冒険劇を仕上げるにはおよそ2000ft(609m)ものフィルムが必要となるが、勤勉なカメラマンが一日一生懸命休みなく働いても50ft(15m)のフィルムを作るのが限度だ。優秀なオーケストラもカートゥーンを目の前で見て、サウンドエフェクトを一度ではなく二度作る。そのうち出来の良いほう仕上げに使われる。現況、アニメ映画製作は、こうした新しい音の制作に携る大勢のスタッフの創意工夫の粋を結集したものなのだ。今日、ハリウッドには産業をリードするスタジオは2つある。1つは『シリー・シンフォニー』や『ミッキーマウス』シリーズを作ったウォルト・ディズニー、もう1つは『しあわせウサギのオズワルド』シリーズを作ったランツ&ノーランで、彼らは一か月に6作品も手掛けています。
2つのスタジオには違う所も少しあるが、カートゥーンを作る手順に関してはほぼ同じだ。最初のステップはもちろん物語の大枠を決めるところから始まる。作家、アニメーター、イラストレーター、音響監督に至るすべてのスタッフが、カートゥーンのギャグミーティングに参加し、アイディアを交わし合う。ストーリー中に流れる全音楽を統括する音楽監督は、ストーリーのアイディアが出来るたびにそれに合う音楽を考え、ストーリーとアイディアに合う音楽を作り上げていく。
<P14-15 見開き>
左ページサブタイトル:
ミッキーマウスの腕を上げるためにはイラストが6枚も必要である。
右ページサブタイトル:
2つのミュージカルレコーディングで良い物を完成したアニメーションフィルムにする。
左ページ右上の解説:
ミッキーマウスがとるポーズのイラスト。これはアニメーターが適切なポーズはどれかを見せるために描いている。
左ページ左下の解説:
一番上はアーティストがミッキーマウスを描いている写真。一人一人のアーティストが完成フィルムにおいて自分が担当したセクションの責任を負っている。真ん中の写真はカートゥーンのストーリーの背景をアーティストが描いている様子。下はウォルト・ディズニーのスタッフがスタジオの外で集まって撮った写真。
右ページ左上の解説:
ミッキーマウスには5本じゃなくて4本しか指がないって知ってた?
右ページ右下の解説:
上の写真がフィルム上でサウンドトラックを録音する印刷機だ。左側のフィルムはサウンドトラックのもので、右側のはアニメーションシークエンスをとらえたものだ。通常、2曲かそれ以上のサウンドトラックが作られ、一番良い物がカートゥーンと一緒にフィルムにプリントされている。インコの口の動きに注目。
本文:
ストーリーのメイン構想が十分に出来上がり、すべての音響効果、演出、伴奏部分の音楽が決まったら、シナリオが書かれ始める。カートゥーンを作るすべての要素はシナリオ上に記された。それが完成したらいくつかのパートに分けられ、アニメーターたちに振り分けられていく。そこから各アニメーターに担当となるパートが割り振られる。これらの割り当てられたセクションのシナリオもさらに細かなシーケンスに分けられ、各シーケンスの詳細は「指示表」に示される。「指示表」または「作業明示書」はすべての音楽と音響効果が示されており、この表を見てアニメーターは各シーンを描くことが出来る。
映像映写機の基本原理は人間の視覚における光の存続性にある。簡単に説明すると、人間の眼で何か物を見た時、たとえその対象が一瞬で見えなくなっても、消えた後の1/16秒はまだその映像が目に残っている。であるからして、他の物がすぐ視覚に入れば2つの映像が重なることになる。映画は、その前後で微妙に異なる数千のスチール写真の連続で構成されている。これらの画像を1秒間に24枚連写することで(この間隔がスタンダードとされている)、人間の眼はすべてのイメージを混ぜあわせて、ひとつの動画として認識することができる。実際に動く人間を撮影した写真と異なるのは、アニメは個別に作成された連続した絵であるという点だ。
アニメーターの話に戻ると、彼らは「指示表」を渡された後、カートゥーンを描く作業に入る。それぞれの原画は8×10インチの白い用紙に描かれていて、細かい詳細設定にいたるまですべてここに書き込まれている。1種類の背景に対して沢山の動画が使用されている関係上、キャラの動画には背景画に関する詳細情報が記されていない。何千枚にも及ぶ動画はシークエンスからシークエンスまでの動きの過程を表している。具体的には、腕を上げるという簡単なアクションでも4から6枚の動画が必要となる。例えば、カートゥーンの中でミッキーマウスがブラック・ベアーに歩み寄って蹴飛ばすシーンを描くとしよう。この小さな出来事はスクリーン上ではほんの一瞬の出来事だが、その裏では何百枚もの動画が必要とされている。一枚一枚の動画は前の動画よりもほんの少し先に動いた絵になっている。そのため、すべてのシーンに足が描かないといけない。完成フィルムには1ftにつき16枚のコマがあり、1つのカートゥーンにはそれぞれ異なる10~12,000枚の動画を要する。
作画が出来上ると、それらは同じサイズのセルロイド紙上にトレースされ、インディアインクでインク描きされていく。この仕事はオズワルドスタジオにいる16名の女性スタッフが担当している。背景画もアクションカットと同じようにトレースされていく。背景画に任意のアクションカットが重ねられ、ひとつのシーンが完成する。そしてこれらトレース画は次に撮影の段階へと移行する。
これらのトレース画を撮影するカメラのセッティングはカメラマンにとってもっとも都合の良いように調整されているが、この調整が一番面倒な作業かもしれない。各トレース画は背景の上に敷き、撮影され、フィルムを巻き、そしてこの手順を繰り返す。プロセスには時間がかかり、一日50ft(15m)のフィルムを完成させることがせいぜいだ。カメラは撮影台の真上に設置されている。この撮影台はガラス板の窓になっており、下から照明機で照らされている。ガラス板の上部には2つの止め金があり、セル画に開けられた2つの穴を通すようになっている。こうすることでシートが動かないようにしている。この段階までは、以前のサイレントアニメ制作の手順と変わらない。音の導入はアニメ制作における困難と工夫の幅を何倍にも増大させた。
<P16-17>
サブタイトル:
ミッキーマウスが出来るまで
本文:
音楽が加えられて、音響効果もセリフも全て1つのサウンドトラックに一度に入れられる。音を映像にシンクロさせるのは簡単な作業ではないし、しかもミュージシャンがその作業を行っていた。最後の作業とフィルムへの焼き付けが終わって完成したカートゥーンは、100ft(30m)ぐらいに短く切られる。これは、フィルムが一本のままだと、万が一トラブルが起こった際にすべてのフィルムが台無しになってしまい撮り直すことになるからだ。ミュージシャンは全員がカートゥーンのレコーディング向けの訓練を受けていて、カートゥーンのオーケストラも同じメンバーしか使わない。彼らはさまざまな楽器を有しており、場面に適したサウンドエフェクトを作ることができる。うなり声、悲鳴、うめき声などはスタジオに所属する技術者が作った特別な楽器で音を出す。その際、録音される短いシークエンスは防音スタジオのスクリーンに投影される。マイクや録音機材がセットされており、ミュージシャンはカートゥーンのアクションを見ながら録音することができる。正しい音が出て、アクションのタイミングとシンクロ出来るようにリハーサルが行われる。例えば、オズワルドがライバルを板で叩く時、叩いた音が大きく、正しいタイミングで鳴らないといけない。ライバルがうめく「うめき音」は一人のミュージシャンが録音を担当している。録音作業自体は、全体のカートゥーンで1つのパート毎に2回録音される。この作業を踏むことで、仮に録音を失敗してオーケストラ全員呼び戻すよりも、スタジオでリメイクした方がコストが安くすむのである。
この段階では音とアクションが別々になっている。つまり、音とアクションは別々のリールに収録されており、2回撮ったシーンがそれぞれのシーンと一致しないといけない。プロジェクターを特別な配置にして、画面に映るアクションと音が同調していたら2つのリールはシンクロしていることがわかる。この場合、一致している一秒の場面を最も合っている “テイク”として選ぶことができる。この「ピックドテイク(原文:picked takes)」と呼ばれるものが繋ぎ合わせられ、すべての音のリールが映像に同調していく。普通の映画と違うところと言えば、カートゥーンはカッティングが必要ではないという点だ。すでに十分な枚数の絵が出来ており、一つ一つの絵が最終的リールの位置で撮影されている。カートゥーンを作っていく最後のステップは「ラボラトリールーティーン」、アクションとサウンドトラックを一つのフィルムに焼き付けていく作業だ。これで、一般に公開するアニメ映画の準備が整う。
アニメ化されたカートゥーンの驚異的な人気は、音響効果とカートゥーンに描かれるアクションが合体したことでた。これらはまさに、今日でいうところの映画における音の時代の結果なのだ。
原文下訳:比嘉セリーナ
翻訳補佐:増子啓延
翻訳監督:丸田剛司
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