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ミッキーマウスはどうやって動いているの?

What Makes Mickey Mouse Move?
著/アール・タイセン ロサンゼルス美術館、映画名誉研究員
イラスト/ウォルト・ディズニー
 
 
<P8-9 見開き>
左ページ中央右の解説:
 これは仕事場でのミッキーマウスアーティスト
様子だ。彼らは各シーンのすべての動きを自分
たちで演じている。そうすることで、自分たちが
考える動きをより上手く絵に表現できるからだ。
左の写真は、どのようにミッキーマウスの個々
シーンが作られているかを紹介している。
”セット”と呼ばれる色が塗られたシートの上に
”モーション(動き)”を表す2つのセルロイドが
重ねられる。それを組み合わせて、完成した
シーンが下の写真だ。
 
右ページ左上の導入文:
 多くの経験を積んだアーティストと、サウ
ンドエンジニアが50人集まれば、滑らかに
喋るカートゥーン映画をスクリーン上に公開することが
できる。この素晴らしい仕事がどのように成功したかを教えよう。
 
右ページ中央右の解説:
 ミッキーマウスが創造主ウォルト・ディズニーにささやきかける。
 
右ページ右下の解説:
 これはミッキーマウスの映画を撮影するために使用された数あるカメラのうちの1つ。映画のフィルムフレームの1つが撮影され、次のアクションカットに使うフレームのセルロイドシートを用意する間はカメラを止める。ここではスクリーン上のエフェクトのみを与える。バラエティーに富んだ音はこのあとで合わせられる。
 
本文:
 ミッキーマウスを動かすことは、なにもウォルト・ディズニーがスタジオの後ろで不思議で技術的な手段を使っているわけではありません。誰にでも理解可能な、とても興味深い方法を使っています。マンガをアニメーションにする方法は魅力的です。手で描いた絵が動き出すなんてちょっとした奇跡だとも言えるでしょう。
 カートゥーンスタジオは、多くの点で実写用のスタジオに似ています。両者ともスターやキャラクタ-がおり、ストーリーやシナリオ、ディレクター、舞台のセットがある。ディズニースタジオでは、スターはセルロイドに描かれたカートゥーンのイラストで、セットは大工が木材から作ったものではなく、アーティストが描いた水彩画だったりします。カートゥーンの監督は「レイアウトマン」と呼ばれ、文字通り、彼の任務はストーリーのレイアウトをすることです。鉛筆でラフスケッチを描いて、ストーリーの動きを描くアーティストのガイドとなる。カートゥーンの登場人物が物語の中でやる事をラフスケッチで見せるのだ。
 
どのように”モーション”が与えられるか
 カートゥーンがどのように動くかを説明するには、まず映画のフィルムを見てみよう。フィルムのそれぞれのフットは切手よりも少し大きいサイズの16個の写真から成っている。この小さな写真は、映画用に透明なセルロイドで出来ていることを除いては、コダック(小型カメラの商品名)の写真によく似ている。映画用カメラで動きを撮影すると、ポーズの異なる連続写真として記録される。例えば、人の歩いているところを録画したとすると、すべて違うポーズとしてカメラに撮影される。この別々のポーズを早いスピードでスクリーンに投影すると、個々の写真が動いているように見えるのだ。
 映画用カメラには2つの異なるギアのセットがあり、一方のセットは16枚の写真か1フットのフィルムを1クランクで撮影し、もう一方のセットは1回クランクを回す毎に1枚の写真しか撮影を行わない。後者は「ストップアクションカメラ」と呼ばれており、カートゥーンを作る為に使われるセットです。
 
すべてのポーズのために描かれる絵
 ミッキーマウスが動いているという幻を見せるために全てのポーズ毎に別々のイラストが必要となります。これらのポーズはストップアクションカメラで1枚1枚撮影されています。カメラの前で様々なイラストが変更されている間、もちろんカメラは止まっているのです。
 例えば、ミッキーマウスの『ミッキーと豆の木』のシーンを想像してください。彼は巨人のテーブルの上にいて、巨人に見つかってしまいます。もちろん、ミッキーは振り返って逃げ出しますが、このアクションを見せるために、ウォルトはまず初めに食卓の水彩画を描きます。次に、セルロイドにトレースされることになるミッキーマウスのカートゥーンを描くのです。
 
 
<P10>
サブタイトル:
1本のミッキー映画の為に何千枚もの動画が必要となる
 
右上の解説:
 これは『ミッキーと豆の木』のシーン。ディレクターの最初のスケッチだ。鉛筆スケッチと文字による表記でミッキーが巨人から逃げる為にチーズの中に隠れるというアクションの指示をディレクターが提示している。
 
中央左の解説:
 このアーティストは同僚たちが描く原画の初期スケッチを作っている。鏡を持ち、自分の表情をチェックしながら、それを参考に表情のスケッチを描いている。
 
左下の解説:
 ウォルト・ディズニースタジオ内にあるサウンドスタジオの様子。オーケストラに加え、多くの音響の専門家が、必要となるすべての音を提供するために集められる。
 
 
<P9下部-11>
本文:
ミッキーが巨人から逃れた方法
 着色されたテーブルのイラスト上にセルロイドに描かれたカートゥーンが置かれると、ミッキーマウスがテーブルの上に立っているように見える。ミッキーが巨人から逃げるシーンなので、次のカートゥーンの動画はテーブルから片足が離れて、逃げ始める姿勢のものになる。最後のイラストはテーブルのイラストに置き換えられる。ウォルトはミッキーマウスが片足をテーブルから上げるカットを描いて、もう片足がテーブルから離れて、巨人から逃げるカットを描き続ける。それらの動画がそれぞれストップアクションカメラで映画用フィルムに撮影される。
 この絵ではミッキーはスイスチーズの中に隠れている。彼がチーズに走るだけで、すべて異なる50枚の動画が必要になる。これらが映画館で高速で投影されると、ミッキーが走っているように見える映像を作り出すことができる。
 カートゥーンのアクションの1枚1枚が一連の動きのセットとして描かれていることを忘れてはならない。勿論、これをする為にはかなりの数の作画が必要になる。ウォルト・ディズニーと彼のスタッフは1人当たり10,000から12,000の作画をカートゥーン映画の為に描いている。映画で見るぶんには7分ぐらいだが、たった7分のためにしてはかなり大変な作業である。
 
アーティストは6ケ月間勉強をする
 同じ映画を手掛ける50人のアーティストの絵柄を揃えることは簡単なことではない。技術レベルも同じでなければならない。でないとミッキーマウスの動きがバラバラになってしまう。基準に合わせるため、アーティストは6ケ月に渡るトレーニングを受ける。
 カートゥーンのシナリオは、”ギャグ・ミーティング”の成果だ。ディズニーカートゥーンにふさわしいアイディアを思いつくと、用務員からスタジオの猫まで、誰もがアイディアやギャグを提示する。猫はおどけた動きや行動でギャグを提示するのだ。そういったすべてのアイディアが重視される。
 このミーティングの目的はカートゥーンのシナリオ作りだ。ミーティングではディズニーグループ全体から沢山のアイディアやスタントが交換される。それらをウォルトが何度も吟味し、適切と判断が下されたものがミッキーマウスとなる。
 カートゥーンのシナリオは通常の映画のシナリオとは異なる。違る点は原稿が2つ存在するということだ。1つ目はストーリーやアクションの細かいところが示されている。2つ目はそれに一致する音楽と音が示されている。この2つのパーツは音楽の拍子に沿って慎重に合わせられます。このとき、それぞれの音楽の拍子を合わせるためには一定の長さのフィルムを必要とし、そしてキャラクターは拍子に厳密に合わせた動きをしなければならない。2つのシナリオを作る理由は、物語の絵と音は同時には収録できず、別々のフィルムに録画・録音されるためです。ストップモーションカメラでは音は録音できないからです。しかし、そのカメラはカートゥーンアニメーションを撮るときには必要となる。サウンドフィルムとピクチャーフィルムはその後にシンクロされる。
 
サウンドステージ、不思議な場所
 ディズニースタジオの最も面白い場所の1つはサウンドスタジオだ。そこは不思議な静けさが漂っている。防音設備によって、ここでの音はすべて虚ろに聞こえる。部屋のすみにはリハーサルで録音した音を判断する「モニタールーム」がある。ここでウォルトと音楽ディレクターはサウンドレコーダーから流れてくる音を確認する。
 ものまねスタッフがそれぞれのキャラクターの代わりに喋り、オーケストラは楽譜を提供する。オーケストラとともに作業するスタッフは「エフェクトマン」と呼ばれ、様々な音を出すことが出来る機械装置を操作する。
 カートゥーンスタジオでサウンドエフェクトを録音するのは楽しいだけではない。それはまるで古の錬金術師の実験室にいるようなものだ。ディレクターが犬を吠えさせたり、臭いを嗅がせたり、キスや、ぞくぞくするような唸り声をあげることを要求する。あるいはドアをバタンと閉める音なども。キスの音は奏者が自分の手の裏にキスをして出している。ボトルとコルクを手に持って音を出すとサルが話しているように聞こえる。空き缶と樹脂の紐でミッキーのパンツが引き裂かれる音を再現する。犬の吠える音はさまざまなピッチで持っていて、大きい犬のために低い吠え声、小さな犬のために高い吠え声、怯えている声などがある。すべての音はこういった器具や声のコントロールが出来るものまねスタッフによって再現されている。
 
リズムを刻み、時間を守る
 ものまねスタッフがヘッドフォンを着けて、マイクの周りを囲む。イヤフォンからはリズムが流れていて、これでタイミングが指示される。リズムを刻むことによって、いつセリフを喋りはじめるかの指標としている。リハーサルではこのリズムと拍子でなんとなくミッキーがセリフを言うべきタイミングをとらえている。そのため、会話は的確なポイントから始められなければならない。
 繰り返しになるが、映像の方は違うフィルムで違うスタジオで撮影している。同じフィルムには録音されていない。音の録音に使うカメラは90ft(約27.5m)のフィルムで1分間録音できる。音とストップアクションカメラの映像を合わせて1日50ft(約15m)を撮影出来れば上々だ。時間がかかるのは、撮影する毎に毎回ポーズを変えないといけないからである。

原文下訳:比嘉セリーナ

翻訳補佐:新藤裕登

翻訳監督:丸田剛司

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