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ミッキーマウスと「音」の秘密
Sound Tricks of Mickey Mouse
著/アール・タイセン ロサンゼルス美術館、映画名誉研究者
イラスト/ウォルト・ディズニー
<P2-3 見開き>
左ページ右上の導入文:
ちゅーちゅー、があがあ、ぶーぶー。鳴き声と音楽。
――新しいタイプのカートゥーン映画が登場した。
どうやって干し草のベーラーが楽団に加わったのか、
読んでみてほしい。
左ページ中央の解説:
デュマが書いた『三銃士』のドラマ作品化の可
能性は、長年に渡り映画界から認められていた。
そこに、ウォルト・ディズニーはコメディー作品と
しての可能性を見出す。ここにそのアクションカ
ットを示す4枚の「ラフスケッチ」がある。
左ページ左下の解説:
「ラフスケッチ」のコピーはコマの動きを描く
漫画家(動画担当者)、サウンドエフェクトを作る音楽家
へと渡される。上の写真はそれらを同調させているところ。右は
サウンドエフェクトのための機器。
右ページ右上の解説:
音楽家が用いる『ミッキーの道路工事』の楽譜の一部。音楽なしではアニメの動きは活かしきれない。
右ページ中央左の解説:
ウォルト・ディズニーが小魚を使ってペンギンが話をしているように誘導している。ペンギンが喋り始めたら(動いたら)、その声をカートゥーン映画用に録音する。ペンギンの声は映画『フグとペンギン』で聞くことが出来る。いろいろな動物を「喋らせる」のにはあの手この手が使われている。
右ページ中央右の解説:
左の「ラフスケッチ」は音楽解釈のためにピント・コルヴィッグに渡されたもの。機械のそれぞれの可動部分には上の楽譜にある音が与えられた。
本文:
カートゥーン映画における音楽やさまざまな音は物語の動きを説明する。音楽によって物語られるテーマと、「サウンドエフェクト」と呼ばれる音がストーリーにメリハリをあたえるのだ。
象徴的な音やノイズが聴覚神経を刺激してオーディエンスの精神に作用し、作品のドラマチックなシーンや感動的なシーンを演出することができる。
ドナルドダックが転んだとしよう。音響担当にドラムを叩かせるだけでは足りない。その転び方にあった追加の音が必要となる。登場するキャラクターが転んだときの「サウンドエフェクト」だけでも複数種類あり、どのようなストーリーなのかによってでも、それは異なってくる。同情をひくような雰囲気が望まれているときは、「転ぶ」音はうつろで耳障りではない音が選ばれる。それと同時に、聴覚を揺るがす耳障りな音はこの効果音のために作られている。
連なる音は、転ぶキャラクターに合わせられる痛々しい音などのユーモアのために幅広く使われている。サウンドエフェクトのユーモラスな演出は往々にして誇張的であり、非現実的なものとなっている。わかり易い例としては、『ウサギとカメ』に登場するウサギが、高速で走っていたのを急停止したときに鳴る車の急ブレーキのような音がそうだ。
研究と実験を重ねることで、ウォルト・ディズニーとそのエンジニアたちは音楽や様々な音と物音、雑音をカートゥーンで流すことによって観客の反応を変化させたり制御できることを発見した。特定の音の調子やテンポをあわせることで、カートゥーン音楽の心理的な作用は物語の面白さとともに強調される。
深いトーンの16個の音の流れは、重い、または憂鬱そうなムードを作りだすことができる。ウォルト・ディズニーのチーフ・エンジニアであるウィリアム・ギャリティは、高周波数の音を「痛みに繊細な領域」と呼んだ。この高いピッチの音は聞く者を警戒させたり、ガラスを擦り合わせた音のように実際に苦痛を伴わせることもある。人間の耳は平均2,000~3,000サイクルの周波数に敏感であるため、この音がカートゥーンのBGMに使われない限り、効果音に対して観客の反応は低くなってしまう。
物語は音によって伝えられる。『三匹の子豚』の歌詞を書き、車や飛行機など機械を擬人化した「ものまね」に秀でたピント・コルヴィッグは、音だけで物語のすべてを表現することができた。例えば、最近の作品では工事現場のスチームローラーの音のものまねをした。なんと、騒音や喘鳴、破裂音やエンジン音などの色々な物音まで再現した。彼は、機械などの装置を使わずに自分の声だけで、仕事に忙殺され働きつめてとうとう疲れて止まってしまったスチームローラーの物語を表現してみせた。これをするために、彼は、音とその変調に対する事細かな指示が書き込まれた紙に絵を描いたものを用意した。望んだエフェクト、トーン、テンポに従って作成された五線譜が、ペンとインクで描き出された蒸気ショベルに命を吹き込む。トロンボーンとサウンドボーカルのサポートとともに、ピント・コルヴィッグは飛行機のさまざまなおどけた様子をさせることができた。現実の飛行機の音はカートゥーン作品のエフェクトに使うには適していない。
<P4-5 見開き>
左ページ右上の解説:
こんな多才なアクションでも、音楽の伴奏なしではなんの面白みにも欠けてしまう。
左ページ左上の解説:
録音する前の最終ミーティング。ディズニーとディレクターが指揮者と話し合いをしている。
左ページ中央右の解説:
特殊なエフェクトを付ける為に使う特別な共鳴装置付フロアにて『シリー・シンフォニー』のオーケストラが演奏している。平均的なフィルムの製作には50~60時間ものリハーサルが必要となる。
左ページ左下の解説:
モニタールームにディレクター、技術長とディズニーが集まり、防音スタジオで作った音を視聴している。ここでは映画で流れるそのままの音が再現されている。
右ページ左上の解説:
『シリー・シンフォニー』で使われているそれぞれのギャグは何百案もの中から選ばれている。ギャグ考案担当部門には何千個もの特許が出されそうもない発明がごろごろあり、それは映画の関係者だけが楽しむことができる。右は『田舎のねずみ』でボツとなったアイディア。カードに記されいる情報に従ってファイル分けされる。
右ページ中央左の解説:
『シリー・シンフォニー』に参加する全音楽演奏メンバーの写真。カルテット(四重奏)は左、サウンドエフェクト(音響効果)のメンバーは真ん中、オーケストラが右。左にあるパネルでは色んな音をブレンドして“ミックス”を行う。
右ページ中央右の解説:
現在、音楽は映画のアクションを際立たせる一大要素となった。それぞれのベストな音楽に定められる無数の動画の尺をカートゥーンアニメーターたちは推し量らなければならない。動画の枚数は合わせる音楽の時間によって変わっていく。
本文:
カートゥーンのひとつひとつの音は考えに考え抜かれた末に導き出されたものだ。『ミッキーの害虫退治』では登場する全ての虫にしゃっくりの音を設定し、ミッキーが虫のスプレーを使って虫を除去しようとした時のミッキーのしゃっくりなどは録音するのに長時間のリハーサルを要した。いくつかの音は何時間もリハーサルが必要だったり、一つのフィルムあたり平均して50~60時間のリハーサルが必要だった。
ディズニースタジオには、色々な音のものまねをするためだけに雇用契約をしている男女合わせて6名のスタッフがいる。アヒルの鳴き声に似たドナルドダックの話し方や歌い方は変声機械をまったく使用せず、肉声のみで演じられている。マダムクララの鳴き声やミッキー、その他のキャラクターも同様だ。ウォルト本人がミッキーのしゃべり声をあてている。「ものまね師」たちは、ほとんどの時間をカートゥーン向けの音を発明するために使っている。
カートゥーンで使われるキスの音は、「ものまね師」が自分の手や腕にキスしている音を使う。例えばミニーがミッキーに抱きついてするキスでは、「ものまね師」は自分の手先にキスをする。小さな羽虫が食べ物に吸い付いているときは親指にする。しっとりしたキスは曲げた肘にキスをして音を出す。こうした裏側を聞くと、ユーモラスな本編内容に比べてカートゥーンにおけるハグはそれほど感動的とも言えないだろう。
最近制作したカートゥーンではキャラクターが水中で話している音が必要となった。いくつか試してみた結果、ひとりの「ものまね」スタッフが水撒き用のホースを彼の口に差し込み、水を放流しながら話すことで再現できた。
ほとんどの音は肉声で再現されたが、一方で様々な装置や材質の物も使われている。火がゆっくりと燃える音はセロハンをくしゃくしゃにした音を使い、パチパチと燃え散る火の音は竹の束をひねる音で作られた。汽車が出発する音は空き缶に砂利を入れて作られる。空き缶と砂利を振ることで、線路を進む汽車のような音が出せる。もう一つの方法は複数のワイヤーの先を手で掴んで、反対側の先端でトタン板をこするもの。さまざまな雷鳴は牛の皮や金属板を叩く音で作られる一方、風の音は車輪にワイヤーを付けて早く回すことで作ることができる。不気味な風の音は絹布をしっかりと張った木製の太鼓を回転させて再現している。雨の音はピアノ線を弾いて作られる。
ライオンの鳴き声はドラムのように伸ばされた皮が張られた樽によって作られる。皮の中心には重めの猫の腸が結ばれており、ロジンが塗られている革を腸のなかに滑り落とすことでこの音ができる。犬の場合も装置の仕組みは似ているが、よりサイズの小さいものを用いる。さまざまな高低の吠え声にはそれぞれ異なるサイズの空き缶で作られる。犬の「言語」の場合、紐に革を滑らせて作る。もちろん、日常用具もしばしば使われることがある。手回し式泡立て器は機械が出す音を、ダービーハット(山高帽)はポンポンという音やただ単純に「ポン」といったような音が作れる。
<P6>
左の解説:
ワックス掛けされた床というセットによってこのキャラクターの一連の面白い事象が引き起こされている。カートゥーンのイラストレーターが“ラフスケッチ”を描き、アニメーターがその動画を作り上げていく。その間にオーケストラは『田舎のねずみ』におけるそれぞれの転ぶシーンで流れる「すべる音」を作る。ひとつとして同じ滑り方はないので、その転び方に合う音楽を作っていかなければならない。
右の解説:
上が完成したフィルムだ。サウンドトラックがアクションカットと組み合わせられている。どの段階まで完成しているかが示されている。この3つのフレームで、ドナルド・ダックがキャンディを貰う為にどれ程細かい作業が必要になるか見て取れる。残り何千もの作業がこの作品を完成させるために必要となる。
本文:
「リスの会話」には瓶に詰められているコルク栓を捻って表現する。「カートゥーンテクニック」を用いて、音に多様な意味合いを付与している。こうすることで、リスがはしゃいだり、恋をしたり、おしゃべりをしているように見える。
録音が行われる防音スタジオは硬いプラスターボードで覆われ、内部の布地の層は鉱物綿、フェルト、そして随所にエアポケットがあるマット材が使われている。このエアポケットは外部からの音を弱める緩衝材の役割を果たしている。そして床には分厚いフェルト材が敷かれている。こうした防音用の建材には2種類の役割がある。1つは遮音性や防音性、そして2つ目が「ライブ性」を損なわせないため音をマイクまで届くようにする反響性がそうだ。
スタジオ内にはものまねスタッフが音のピッチやボリュームをより良くコントロールできるように、一定の可聴周波数を弱めるために特別に作られた機材が大量に備え付けられている。ピアノや「ドアを閉める」音の為に作られた特別な共鳴板がカートゥーン用に作られた。他にもたくさんの発明が必要となっている。
『シリー・シンフォニー』のオーケストラもメープルの木で出来た特別な共鳴板を持っている。メープル材特有の共鳴能力が向いているため使用されている。トーンに豊富さを与えるこの共鳴板は、スタジオにある大きくしかし段々と先細りとなる拡声器のような形式で作られた。エコーの振動を伝わらせないため、共鳴板は吊るされる形で配置されている。音や音楽のテンポの重要さを良く知っているウォルト・ディズニーは必要な音を作るためにさまざまな新しい装置を作っていった。
BGMで作られている楽曲は観客の心を捕らえるためには必須な音であって、精巧に作り上げたカートゥーンには重要である。ウォルト・ディズニーはこの事を「イヤリカルイリュージョン(耳に与える幻想(イリュージョン)という意味だと思われる)」と呼ぶ。心理的な効果を映画を見ている観客に与えるため、アニメ化されたカートゥーンの楽譜は示唆的な音と音楽のテンポと選曲が慎重に決められている。
感情的な作用は音楽そのものだけでなく、どのシーンで使われていたのか、そして音がいかに組曲に溶け込んでいるかも重要となる。例えば、その場面に悪者がいるとしたら、鬱陶しい音が必ずBGM に入っており、ミュージカルエフェクトと上手くタイミングが合わされている。
<P7>
サブタイトル:
音にストーリーを語らせる
本文:
テンポとミュージカルを上手く合わせることで観客を興奮させられるかもしれないし、「イヤリカル」(耳への働きかけ)な極楽にひたれるかもしれない。ミュージカルのテンポはカートゥーンのストーリーのアクションの動きを早めて全体をテンポアップするときに使う。その為には遅めなミュージカルのテンポをBGMで流したり、テンポか「間」を観客が遅いと感じたら、その「間」を除々に上げていく。観客も一緒に巻き込んでいくことを、ディズニーのアーティストは「ミュージカルバキューム(音楽の掃除機)」と呼ぶ。
虫は、偽りではあるが真剣な戦いへ向かう為の4/4拍子のマーチにのって旅立つ。コメディのマーチが流れる時は6/8拍子が使われている。2/4拍子はアクションが除々に早くなるビートが刻まれ、例えば「追いかけられる」シーンのBGMとして使われる。3/4拍子のワルツのテンポは美しさが強調されるシーンで使われる。
音楽と音はウォルトディズニーと良い関係を築いた。彼のカートゥーンにある音楽とサウンドエフェクトは、映像が目にそうするように、作品の物語を叙情的に耳に伝えていく。
原文下訳:比嘉セリーナ
翻訳補佐:増子啓延
翻訳監督:丸田剛司
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